難病だけではない、つくしの看取り看護
こんにちは。
つくし訪問看護ステーション、5年目のアラフォー看護師です。
皆さん、当ステーションにどんな印象をお持ちでしょうか?
「つくしと言えば、パーキンソン病などの難病に強い」というイメージがあるかもしれません。
でも実は、私たちは癌などで最期を迎える方の「終末期のお看取り」も、とても大切に行っています。
人生に一度しか訪れない『死』に、わたしたち看護師はどう向き合っているのか。
今回は、私自身の原点となったエピソードを交えながら、少しお話しさせてください。
15年前、若き日の私に衝撃を与えた「Sさんの笑顔」
私は総合病院の病棟で13年ほど勤務した後、5年前に訪問看護の世界に足を踏み入れました。
病院時代にもたくさんの看取りを経験しましたが、今でも忘れられない一人の患者さんがいます。
背中が曲がり、小柄で、言葉数の少ない高齢女性のSさん。
痛みで病院を受診した時にはすでに末期の癌で、積極的な治療は行わない方針が決まりました。
入院してからのSさんは、痛み止めは飲んでくれるものの、食事をまったく食べてくれません。「何が食べたい?」と聞いても、ただ一言「いらない」と。
カンファレンスで話し合い、試行錯誤を繰り返しましたが、食べても1〜2口。
「もう最期が近いから、食べる意欲がないのかな……」と諦めかけていた矢先、Sさんがふいにこう言ったのです。
「ビールが飲みたい」
実はSさんにはご家族がおらず、唯一面会に来られていたのは、近所の居酒屋の女将さんでした。女将さんに聞くと、Sさんは毎日シルバーカーを押して、その居酒屋へビールを飲みに行くのが生きがいだったそうです。
女将さんに「ビールが飲みたい」と言っていた、とお伝えすると、
「そこまでして……。でも、病院でビールなんて飲めないのにね」 そう言って涙を流す女将さん。
しかし、この話を知った緩和ケアチームのスタッフが、医師へ必死に交渉してくれました。
そして後日、女将さんが作ったおつまみと一緒に、ノンアルコールビールを提供することになったのです。
いつも痛みに顔を歪め、ただ一点を見つめていたSさん。
目の前に置かれたビールとエビフライを見た瞬間、ビールをぐいっと一口飲み、エビフライを手づかみでバクリと食べ始めました。ノンアルビールをコップ半分、エビフライを1本。
そして、
満面の笑みで「おいしかった」
と言ってくれたのです。

Sさんが旅立たれたのは、その数日後のことでした。
「食べることは、生きること」だからこその葛藤
終末期になると、生命を維持しようとする身体の機能が徐々に低下し、飲み込む力(嚥下機能)が弱くなっていく方も少なくありません。
病院という限られた環境のなかで、食べたいものを食べて「おいしかった」と笑ったSさんの姿は、当時の私にとって強烈な衝撃でした。
「口から食べたい、食べてほしい」それは、ご本人だけでなく、そばで見守るご家族の「生きてほしい」「喜んでほしい」という、愛情と不安が混ざり合った切実な願いでもあります。
だからこそ、私たち看護師はその思いを絶対に忘れてはいけない、と心に刻みました。
しかし、在宅の現場でも、これは非常にデリケートな問題です。 飲み込む力が落ちているときに無理に食べさせると、誤嚥(ごえん)を引き起こし、それがきっかけで命を縮めてしまう危険があるからです。
もし、その一口を運んだのがご家族だったら、一生消えない後悔を残すことになりかねません。
本当にそれをご本人が望んでいるのか。ご家族の「してあげたい」という想いと、ご本人の苦痛や負担との間で、悩む場面も少なくありません。
ご本人の「尊厳」を守るために、私たちは丁寧に、慎重に、ご家族の想いを受け止めながら状況を判断していく必要があります。
15年前のバトンを受け継ぎ、つくしで叶えた「もう一つの願い」
先日、つくしで担当していた癌末期の利用者様のご家族から、「何か食べさせたい」とご希望がありました。
しかし、そのとき利用者様は最期が近く、意識も朦朧とされている状態。
「今の状態では、無理に食事をとることが負担になってしまう可能性があります」と説明するしかありませんでしたが、と説明するしかありませんでしたが、ご家族の落胆の表情を見るのは胸が痛みました。
一生懸命に介護をされ、身体をさすり、思い出話を語りかけてきた、大切な大切なご家族です。「食べることは難しい。でも、大好きな味を感じることはできるかもしれない」そう考えた私は、ご家族にある提案をしました。
「お父様、コーヒーがお好きでしたよね。口腔ケア用のスポンジにコーヒーを含ませて、冷凍庫で凍らせてみませんか?」

後日、少し意識がはっきりされたタイミングで、ご家族と一緒にその冷たいコーヒースポンジをお口に含ませていただきました。
すると、利用者様がかすかに「おいしい」と呟かれたのです。
「お父さん、おいしいって言ってくれた……!」 ご家族はそう言って、喜びの涙を流されました。
ほんの少しの工夫、ほんの少しの引き出しがあるだけで、ご本人とご家族の心が救われ、満たされる瞬間があります。
「食べられない」と諦めるのではなく、「今できる、最善のこと」を探す。
病院から地域へ飛び出し、この「つくし」で訪問看護をする中で、15年前にSさんから受け取った宿題が、少しずつ実を結んでいるのを感じています。
悩み、寄り添い、それでも私たちは笑顔で訪問へ向かう
「死」に向かってゆく利用者さんたちと、そのご家族様を支えていくこと。
自分自身も経験したことがない「死」に対して、訪問看護師は日々、悩み、思いを巡らせ、寄り添い続けています。
正直にお話しすると、訪問看護は病院時代に比べて利用者様やご家族との絆が深くなる分、お見送りした後の寂しさや、やるせなさは比べものになりません。
看護師自身が、深い悲しみに包まれることもあります。
それでも、私たちは「住み慣れた我が家で、自分らしく最期を迎えたい」と願う人たちの力になりたい。
だからこそ、チームで支え合い、日々学び、今日も最高の笑顔で、安城市の街を走る「つくし」の車に乗り込んでいきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ご相談・ご依頼について
安城市および周辺地域で、
在宅看取り・訪問看護についてお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
「最期まで自宅で過ごしたい」
「何か食べさせてあげたい」
「家族だけで支えきれるか不安」
そんな想いに寄り添いながら、
ご本人様・ご家族様と一緒に、“今できる最善”を考えていきます。
「まだ訪問看護が必要か分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
【つくし訪問看護ステーション】
対応地域:安城市・刈谷市・知立市・岡崎市など
